怒りや不満などの感情は誰もがもっているもですけれど、その表現方法は多様ですね。
特に最近の子供の中には、きれやすい傾向の児童が増えてきていますので心配だなあ。
生徒指導上の対応が困難な児童の中でも、特に、怒りや不満の蓄積や思い通りにならない苛立ち感などの感情をうまくコントロールできないため、その感情を自分の言葉で適切に表現することができず、不適切な行動をする子供のことについて考えてみようよ。
自分の感情をうまくコントロールできない子供
基本的生活習慣にかかわる問題から、不登校やいじめ、授業からの逃避や暴力的な行為、不適切な言動などの諸問題に至るまで、依然として深刻な状況にある子供たちがみられます。
また、学校外においても、通信ゲーム機器を発端とするいじめや性に絡む非行問題の発生やなど、憂慮すべき状況がみられます。
このような中で、突発的な怒り・衝動的な怒りや不満を表出して、気持ちを爆発させたり、暴力等の問題行動を起こしてしまったりする児童について、そうなってしまった時の背景や要因の理解、対応に、多くの教職員が困難を感じている状況があります。
生徒指導の対応が困難な児童の中でも、特に、怒りや不満の蓄積や腹立たしい感情を、自分自身でうまくコントロールできないため、その感情を、自分自身の言葉で適切に表現できず、不適切な行動をする子供(いわゆる「キレる」子供)に絞って考えてみます。
なお、突発的に怒りを表出してしまう行動の背景に、ADHD(注意欠陥/ 多動性障害)等の発達障害の可能性が考えられる場合は、 今回は除外しました。
最も困っているのは、その子供自身なのだ
怒りや不満の蓄積、腹立たしい感情などをコントロールできずに、不適切な行動をする子供について、自分の心にある怒りや不満の蓄積などの感情は、当然、誰もがもっているものですが、その表現方法は、子供によって実に、多様です。
教室から逃避行動を起こす子供、物を投げたり、暴力等を行たりする子供、いじめ行為を行う子供等、いろいろな様相があります。
関係する教職員や保護者にとって、「怒りや不満の蓄積や表出」という行動をとる子供は、えてして周囲の人たちから「困った子供」と受け止められがちですが、しかし、実際のところは、子供自身が適切な行動をとれずに、 最も困っているといえます。
このような子供及び児童全体(学級や学校)に対して、私たち教員にとって必要な指導・援助の方策を考えて、今できることから、取り組みを充実させていきたいと思います。
怒りや不満の蓄積をコントロールするための方法
(1) 具体的な提案作成の目的を明確にする
怒りや不満の蓄積や不満発露の感情やその爆発は、多くの子供たちに発生していますが、ただそれは、人間として自然な感情や行動であると捉えることもできます。
そこで、学級や学年などの集団で、怒りや不満の蓄積や感情に、問題の意識をもって、自分自身のことを考えたり、自分と周囲との関わり方を学んだりすることは、安定した日常生活を過ごし、円滑な人間関係を構築していくために欠かせないと考えます。
できるだけ多くの子供たちが取り組み、学習の波及効果としてストレスの軽減なども実感できるよう、積極的奈生徒指導として、予防・未然の防止対応(一次対応)、徴候が見られる状況への対応(二次対応)と考えられるものから、以下のことを念頭において、すでに実践されている方法について、文部科学省の生徒指導提要等を参考に作成してみました。
○ 学級を単位とした集団で取り組む活動
○ 専門的な知識や技能がなくとも、すべての教師が行える内容
○ 活動実施時間等に配慮しての焦点化した内容
○ 予防・未然防止の効果も含めた実生活に役立つ内容
○ 実施することにより具体的な行動に反映される内容
(2) 具体的な提案の内容例
具体的な提案例は、簡易なもので、誰にもすぐに実践できるものとし、内容を次の3点に絞り込んで考えてみました。
さまざまな感情を確認する
怒りや不満の蓄積や不満発露の感情に関連して、日頃の学習では扱う機会の少ないと予想される、人としての様々な感情に焦点をあてます。
特に、ネガティブな感情は、私たち大人にとっても扱いにくいものですが、誰にも当たり前にある自然な感情であり、誰であっても感じるものだと思います。
そのことを確認したり、すべての感情を肯定的に捉えたりすることは、学習のとりかかりにふさわしいと考えています。
そして怒りや不満の蓄積などの感情についても、誰もが感じることであり、対象や刺激に対して反応するのは悪いことではなく、むしろそれは、人にとっては、自然な感情であるということを感じ取らせたいと考えます。
そのために、『ななこさん、どうしたの?』という教材を活用します。
<授業例>
実際の授業の流れについて、教師の意図や働きかけ、子供たちの反応や感想など、以下、おもな学習活動を、低中学年の児童向け学習活動、高学年児童向け学習活動と、2つの例を紹介します。
[1時間目]低中学年用 学習活動①
<学習活動①> 『ななこさん、どうしたの?』の絵から、気持ちや行動を考え、確認する。
- 悲しい顔、困った顔、笑っている顔、感動している顔の順に一枚ずつ絵を提示します。
- これらは、共感しやすいものから始め、教師の思いや願いにつなげるという意図によるとよいです。
- 子供たちは、「ある。ある。」「こまったとき!」「笑っている顔!」「とっても嬉しい時!」などと、一つ一つについて、よく反応してくれると考えています。
<学習活動②> 提示された「怒りや不満の蓄積の表情を表す絵」を見て、自分にそういうことがあるかどうかなどを考える。
- 「くすんと悲しい顔」、「あれ?っと困った顔」、「にこにこ笑った顔」、「わーいと感動した顔」の順に一枚ずつ絵を提示します。
- これらは、子供たちに共感されやすいものから始め、教師の思いや願いにつなげるという意図によるとよいと思います。
- 子供たちは、「ある。ある。」「こまったとき」「笑った顔」「昨日テレビをみたとき」などと、一つ一つについてよく反応すると考えられます。
<学習活動③> 図絵表の『怒りや不満の蓄積の温度計』を示し、そこに、自分の感じる怒りや不満の蓄積の度合いを記入し、自分の怒りや不満の蓄積の特徴や傾向について考える。
<板書> めあて じぶんがおこったときのきもちについてくわしくしろう。
- 「怒りや不満の程度を表している4枚の絵資料」を用いて、自分のことについて、学習シートに記入します。
- 思いついて、書き記せそうな場面からでいいこと、自分自身の心とよく対話しながら書くことを指示します。
- 途中では、「だれに対して?どんな時?その時の気持ちは?・・・」を記入するように付け加えます。
- 「おこらないようにしている。」「ちょっと怒ってにらむ。」「ぶつぶつとひとりごとを言う。」「大声をあげて不満や文句をいう。」・・・と、それぞれの表情に合った自分の言動を記入させてみるとよいです。
<学習活動④> グループや学級全員の児童で話し合って、自分の怒りや不満の蓄積の特徴や傾向について整理する。
- 2人組(ペアでのトーク)では広がりに欠けるので、時間は少々かかるかもしれないが、多様な考えを共有するために4人組にして、グループトークで一人ずつ順番に記入したことを発表します。
- そして、学級の全員で意見や考えを出し合っていきます。
- それぞれの児童の素直な気持ちを受け止めて授業を行うことを大切にしましょう。
[2時間目]低中学年用
<学習活動①> 怒りや不満の蓄積を鎮めるための、自分の『御呪い(魔法のことば)』の方法を考えて、発表し合ったり、話し合ったりする。
- 教師が「手をとってあげて、怒りや不満の蓄積を抑える」等、『御呪い』の例を紹介します。
- 自分が怒りや不満の蓄積を覚えた時のことを想像して、それを抑えるための方法(御呪い)考えます。
- 前時からの関連を重視して一人一人が思い描いた場面で考えるようにします。
- ペアトーク、グループトーク、クラストークと広げていき、子供の思いや考えを位置付けるようにします。
- 「時間をかけてゆっくり深呼吸して、腹立たしさや怒っている自分の気持ちをしずめます。」「自分に言い聞かせるために、がまん、がまん、といいます。」「その友達から離れます。」「ほかにいいことがあるさと考えます。」「自分の好きな場所にいることを想像します。」などが出てくると考えられるが、どれも大いに納得して見せ、素晴らしい考えであると称賛し、学級内に掲示したりして、大切なことと位置付けるとよいです。
<学習活動②> 自分の気持ちを適切に伝えることができるようにするための、自分独自の『魔法』の言葉を考えたり、話し合ったりする。
- 『おまじない』『魔法』の方法のほかにも、自分でできる何か良い方法はないかを考え、仲直りして、相手に自分の思いをわかってもらう、あるいは、相手の気持ちを分かろうとするための『魔法』の言葉を提案します。
- 子供たちとのやりとりから、まず「相手を認めること」、次に「自分の気持ちを伝えること」が大切であることなどを確認するとよいです。
<学習活動③> 自分独自の『おまじない』と『魔法』を使って、2人組で役割演技をする。
- 自分の不満をなくすため、あるいは、不満と感じないようにするため、子供たちに、現実に起こった時の生活場面を想定させ、「相手を認める → 自分の気持ちを伝える → してほしいことをお願いする」の順を考えて、役割演技に取り組ませます。
- ペアでの話し合いは、ふざけないように行わせることが大切です。
- 最初に、教師が意図的に(この子はできそうだなと)指名した2、3名の子供と演じて見せて、その後、時間を十分確保して、それぞれに行うなど、いきなりさせないで、やり方を示すとよいでしょう。
[1時間目]高学年用
<学習活動①> 『ななこさん、どうしたの?』の絵から、様々な気持ちや行動について考え、怒りや不満が自分の心の中にうまれてくることについて、話し合う。
- 最初に『ななこさん、どうしたの?』(後述資料参照)の①~⑮、それぞれの絵に吹き出し枠を入れた1枚の学習シートを子供たちに配付する。
- ①を例にして「うれしい。今日のおやつはケーキだ。」と示した後、各自でそれぞれにあてはまることを記入します。
- その後、怒りや不満の蓄積に関連している②、④、⑥、⑫を取り上げ、一つ一つについて学級の全員で話し合います。
- 吹き出しに言葉を入れることによって、表現することが苦手な児童も抵抗感少なく記入できると考えます。
- 児童たちからは、②「腹立たしい。」「あいつ、ぶん殴ったる。」④「もう知らない。」「あいつなんて。」⑥「買って!」「わー!」⑫「くやしいよー」「はらたつー。」など、正直な反応がでるようある程度楽しませて学習させたいと思います。
<学習活動②> 『怒りや不満の蓄積の温度計』に、自分の感じる怒りや不満の蓄積の度合いを記入し、記入し、自分の怒りや不満がたまってしまう時の特徴や傾向について考える。
<例>
・ふつうの状態(40度): 友達と約束をしていたけれど、友達の家の都合で、別の日になった。
・少し怒っている(60度):約束した日に、「行けなくなっちゃった」とキャンセルが入る。
・怒っている(80度):約束していた友達が約束を忘れていて、来ない。
・とっても怒っている(100度):友達から約束をキャンセルしておいて、別の友達と遊んでいる。
- 上記のように、『怒りや不満の蓄積の温度計』の記入例を示し、それぞれに自分で考えます。
- 40度「友達とふつうに一緒にいるとき。」60度「友達から少し嫌なことを言われたとき。」80℃「自分のすごく嫌なこと、困らせられること等の何かをされたとき。」100℃「かなり強烈な悪口とか嫌なことをされたとき。」と記入します。
<学習活動③> グループや学級の全員で友だちと思いの共有を図りながら、自分の怒りや不満の蓄積の特徴や傾向について整理する。
- 自分の記入したことを班の中で発表し合い、気付いたことをみんなでビー紙等にまとめます。
- そして、班ごとに学級の全員の場で発表します。
[2時間目]高学年用
<学習活動①> 自分の怒りや不満の蓄積を自己制御、自己調節するための方法を知り、自分に適した方法を考える。
- 事前のアンケートをとっておいて、怒りや不満の蓄積を抑える方法をいくつか例に示しておき、それらにもとづいて児童が考えた自己制御方法を紹介する。
- そして、「自分の気持ちが静まる、相手の気持ちを考える、実現可能な、安心・安全な方法」という視点で、①数を数えることで自分の気持ちを抑える、②自己会話、③深呼吸の三つの方法を提示します。
- それぞれの方法について、教師のかんたんな説明を聞いた後、一つずつ、自分で試してみる。①については実行するのが簡単である、②については「怒ってもしようがない」「もういいや」など、③については、時間をかけてゆっくりやるように心がけるなどを学級の全員で確認して行うとよい。
学習活動② 自分に適した方法を確認するために、2人組で役割演技をする。
- 右のような課題の具体的な場面設定を提示し、2人組になって、AとBの役をそれぞれ体験する。Aは相手がなるべくいやがるように言うこと、Bは①~③のどれかを使って、怒りや不満の蓄積を役割演技してみることを指示します。
- 任意に2人組をつくり、10分程度の時間をとったあと、どの方法を使ってみたか、やってみてどうだったかを聞きます。
- 「怒りや不満の蓄積はおさまらなかったけれど、自分の心を落ち着かせることはできた。」、「深呼吸では、自分の怒りや不満をへらしたり、なくしたりすることは、うまくはできなかった。」、「自分で意識して、じょうずにコントロールするのは難しいと思った。」、「家でもよくあることなので、これからは、自分の力でコントロールしたいと思った。」、「10数えるのは、あまり効き目がなかったけれど、深呼吸は、自分にとってはよい方法で、落ち着けた。もっと、自分に合ったいい方法があるかもしれない。」などの、子供からの言葉が聞かれるように指導したい。
- そのほかに、自分を落ち着かせる方法として、『時間置け法』を簡単に紹介するとよいです。
② 自分の怒りや不満がたまる時の特徴や傾向について知る
これまでの経験や現在の状況などから、怒ってしまったりや不満を持ってしまったりしたときの程度(大きさ)、表わし方など、自分の怒りや不満の蓄積の特徴や傾向について知ることが大切です。
そのためには、言語化したり、他と共有化したりする活動が有効と考えられます。
そこで、『怒りや不満の蓄積の状況を可視化できる温度計』を活用します。
これは、目安となる温度をもとにして怒りや不満の程度を4つの段階に分け、それぞれにあてはまる場面を、自分の経験の中から、具体的に思い起こすことで、自分の怒りや不満の蓄積の特徴や傾向について気付いていくものです。
この取り組みによって、怒りや不満の蓄積や不満の表出を抑えるとともに、適切な表現方法を身に付けようとする意欲に結び付けていけると考えます。
③ 怒りや不満の蓄積に対処する方法を身に付ける
怒りや不満の蓄積を感じたときに、自分自身の力で、どのように対処し、処理すればいいのか、自分も周囲も不利益にならない対処方法を考え、身に付けようとすることが、このプログラムの大きなねらいです。
そして、日常生活の中で、活用することを心掛けて取り組ませることで、これまで以上に自分の感情を制御できるようになることを、感覚的に、体験的に実感させることを目指します。
具体的な方法として、『深呼吸で間をとる』や『自己会話(自己呪文)』、『時間置け法(DESC法:デスク法)』など「自分なりの方法」、「自分が取り組みやすい方法」を考えていくことを大切にし、先生や友だちからいろいろな考えや意見を聴き合いながら、具体的なものにしていくという方法で取り組みます。
その際、相手とのトラブル防止や問題解決、円滑にコミュニケーションを図るための表現方法にも着目していくとよいでしょう。
<例>『深呼吸』
1. 吸う(1・2・3で)
鼻から吸います。肩とみぞおちの力を抜き、ゆったりとへその下に息を入れてふくらませる感じで。
2. 止める(4・5で)
のどで息を詰めるのではなく、腹に息をためて保つ感じ。「腹におさめる」イメージで。
3. 吐く(6・7・8・9・10で)
少しずつ口からゆっくりと吐き出すようにします。
<例>『自己会話』
自分との会話についての役割演技
(小学校中学年の例)
2人1組になって次のような場面を設定します。
自分が新しく買ったゲームに熱中しているところに弟がやってきて、しつこく一緒に遊ぼうと誘う。
(いつもは「うるさい」「あっちへ行け」と追い返している。その結果、弟は母親に訴え、自分は母から叱られるということが繰り返されている)
弟「ねぇ、お兄ちゃん、遊ぼうよ」
「いいでしょう、ね、遊ぼう。いいでしょう」
(しつこくいわれて、腹が立ってきました。)
○ 落ち着くための自分との会話
「落ち着いていこう」
「リラックスしてやろう」
「大丈夫だよ、大丈夫」
○ (自分を落ち着かせることができたら)解決に向けた提案を考える
自分「もう少ししたら、一緒に遊んであげるよ」
「わかった。でも10分だけだよ」
まとめ・・・大人が支援を心掛ける
子供がちょっとしたことでキレてしまう、怒ると暴言を吐く、手や足が出てしまいケンカになる、逆に気持ちを押し殺して我慢をしてしまう・・・。
問題なのは感情に支配されてしまって上手に怒れないことです。怒っていることをどう表現するかについて、なかなか家庭や学校で学ぶ機会がありません。
けれども怒りや不満の蓄積や不満発露の感情と上手く付き合う術は生きていく上で必要なスキルでもあります。
怒りや不満の蓄積を感じたときに子供自身で何ができるのかを知らせておくことは、大事なことです。
そして、その時の感情の心の在り様について、子供が自らが理解していくことが、私たち大人が手助けをしてあげたいことです。
一番困っているのは、その子供自身であることを、私たち大人が意識して支援してあげるように心がけたいものですね。