最近は、子どもたちを対象にした「感情教育」が求められていますが、学校教育の中では、どのように進めたらいいのでしょうか?
若者が引き起こす悲しい事件、家族関係での悲しい事件、学校内で後を絶たないいじめ事案、こういうニュースが報じられる度に、親御さんをはじめ、多くの学校関係者の方から、家庭教育や学校教育の課題が指摘されますからね。
私たちが取り組んでいる『学び合い』も人間関係力を高め、他者への思いやりをもたせるこれからの「感情教育」となっていますが、気を付けていきたいことは何でしょうか?
そうですね。では、今日は、自己や他者の感情を知覚、コントロールし、成功を収める能力を指す「心の知能指数(EQ)」について考えてみましょうか!
EQは「心の知能指数」とも呼ばれ、仕事や人間関係に影響を及ぼすものとして、長らく注目されています。当記事ではEQが高い人の特徴と、EQを高める教育や人材育成の重要性、そしてEQにより発揮される人間関係力について、考えていきます。
目次
EQとはなにか
心の知能指数、「EQ」をご存知ですか?
豊かな人生を歩むために必要な力で、感情知能、非認知能力とも呼ばれ注目されています。
EQとは、「Emotional Intelligence Quotient」の略で、1990年に米国の心理学者ピーター・サロベイ氏とジョン・メイヤー氏により研究された理論です。
EQという言葉そのものは、ケイズ・ビーズリー氏の論文のなかで初めて登場しています。
日本語では、「心の知能指数」と意訳され、仕事や人間関係において「感情をうまく管理し、利用する能力」であるとされています。
心理学博士のダニエル・ゴールマンによると、EQは次のような能力であるとされています。
つまり、自分と相手の感情を把握し、状況に応じて自分の感情をコントロールできる能力であるといえます。
IQとはどう違うのか
IQは、「Intelligence Quotient」の略称で、「知能指数」を指します。
情報を処理する力や答えに辿りつける力が高いほど、IQが高いことになります。
子どもの頃、IQを測定する知能テストを受けたことがある人も多いのではないでしょうか。
IQとEQとは異なるものであり、IQが高いからといって必ずしも人生で成功できるとは限りません。
EQがあってこそIQをいかすことができ、良い人生を送れるとされています。
IQはある程度先天的に決まると言われていますが、EQは後天的に向上させることが可能です。
これまでの人生を振り返り、「自分はEQが低いかもしれない」と感じたあなたもご安心ください。今からでもEQを伸ばすことはできるのです。
EQを構成する4つの能力
EQは、人間関係を円滑にする4つの能力により構成されます。
これらの能力が発揮されると、感情をコントロールしうまく利用できるため、周囲との関係性においてさまざまなメリットをもたらします。
01.感情の識別
感情の識別能力とは「気持ちを感じること」です。相手と自分の気持ちを感じて識別する能力であり、EQを発揮する上でもっとも基本となる部分です。この識別ができなければ相手の気持ちも自分の気持ちも分からないということになります。それでは感情のマネジメントはできません。気持ちを察する力が、この「感情の識別能力」であるといえます。
02.感情の利用
感情の利用とは「気持ちを作る」ことです。何らかの課題や目標に取り組むときに、それにふさわしい感情を自らが作り出すことです。いわゆる「モチベーションを上げること」と似ているところがあるかもしれません。例えば、自分にとって望ましくない境遇に置かれたとき、「この経験はきっといつか役に立つ」と思うことは、厳しい逆境を乗り切るために感情を利用していることになります。
03.感情の理解
感情の理解とは「気持ちを考えること」です。例えば、相手が怒りの感情をぶつけてくれば、その怒りの感情の背景にある理由を推察します。目の前にある感情の原因を特定し理解することで対処の方法も明らかになります。
04.感情の調整
感情の調整とは「気持ちを活かすこと」です。自分の感情を理解(識別・理解)し行動を起こすための気持ちを作り(利用)、実際に行動を起こします。また、行動の過程でさまざまな状況の変化があれば、そこで感情を調整し最適な方向へ軌道修正する能力のことです。
自分と周囲の感情をコントロールする
EQが高い人は周囲の人々の感情と自分自身の感情を知覚し、その感情が発生する原因を知ろうとします。
原因が分かれば対処できるため、自分と周囲の人々の感情をうまくコントロールし物事を良い方向に進められます。
また、自分自身が困難なミッションを遂行しなければならないときは、それを達成した自分をイメージします。
このように行動に向けた意欲を高める感情のコントロールを行うことでモチベーションを高めていきます。
感情のコントロールにより物事を良い方向に導くことができるため、EQの高さは、リーダーシップにおける重要な要素であるといえます。
EQが高い人の特徴
EQが高い人には、さまざまな好ましい特徴が見られます。
一般的にEQが高い人は冷静で落ち着いており、素直に相手の話に耳を傾けます。
また「思いやり」を発揮するため、周囲の人からは「良い人」という印象をもたれ、人間関係に波風が立つことは滅多にありません。
01.柔軟性がある
EQが高い人は何事に対しても寛容です。自分の価値観と違うものに対しても偏見をもたず柔軟に受け入れる心の広さがあります。また状況の変化に対しても寛容に受け入れ、上手に対応できる特徴をもっています。
02.共感力がある
共感力が突出して高いことはEQが高い人の特徴です。言葉だけではなく、態度や仕草からも敏感に相手の感情を察して理解します。これは相手の立場に立って物事を考えられるということでもあります。こうした特徴は相手には「思いやり」として伝わるので、EQの高い人は周囲に慕われる傾向にあります。
03.傾聴力がある
EQが高い人は聴き上手であることが多いようです。相手の話にじっくり耳を傾け、感情を感じ取ろうとします。決して話の腰を折ったりせず、自分の感情と切り離した上で客観的に相手の話を理解しようとします。
04.ストレス耐性がある
EQが高い人は相手の感情を察するだけでなく自分の感情にも敏感であり、それを上手にコントロールするため、ストレス耐性が高い傾向にあります。理不尽な出来事に遭遇しても、それに対する自分の感情を的確に把握し、上手にコントロールし処理することができます。ストレスを溜めにくく、いつも冷静でいられる理由はここにあります。
05.素直
素直であることもEQが高い人の特徴です。自分が失敗したときや間違えたときは素直に自分の非を認めます。言い訳や責任転嫁を良しとしない潔さがあるのです。素直に自分の非を詫び行動を改めます。
06.粘り強い
EQが高い人は、粘り強く物事に取り組む姿勢をもっています。困難に遭遇し諦めそうになったときも自分の感情をうまく処理できるため、途中で投げ出さず今やるべきことに集中できます。コツコツと粘り強く物事に取り組み、やがて大きな成果を上げるのもEQが高い人の特徴です。
EQは子供たちの人間関係力育成に必須のスキル
EQが高い人は、これからの社会で、多くの人と関わって、豊かに幸せに生きていくために、必須のスキルと言ってよいでしょう。
また、社会人となった時には、貴重な人材となりそうです。
しかもEQはもって生まれたものではなくトレーニングで鍛えることができるものです。
EQを高める教育は、いじめがない世界、多様な他者を受け入れ、優しさや思いやりをもって、より豊かな生活や仕事をしていくうえで、また、次世代リーダー育成のための施策として、積極的に取り組む価値は十分にあるといえます。
ここからは、EQを活用したリーダーシップを習得してもらためのアクションプランを紹介します。
Action 01:現状を把握すること
子どもたちが学校教育や家庭教育の中でEQを高め、発揮していくには、まず自分の現状を把握してもらうことです。
さまざまなEQ測定のツールがリリースされているので自社にあったものを利用して、各個人のEQの現状を知ってもらいます。高いスコアをマークした人は普段どのように行動しているかを分析し、好事例として共有するなど貴重な資料として活用しても良いでしょう。
https://eqtest.biz/cate/ans.html?total_p=45&kaku_p=sdwactpxrm&old=1
https://www.arealme.com/eq/ja/
https://jp.vonvon.me/quiz/2960
Action 02:感情の動きのパターンを理解すること
行動のパターンは感情の動きのパターンであるといえます。
自分の行動に改善を図りたい点があると「気づき」を得た子どもがいれば、その行動を取ったときの自分の感情を思い起こしてもらいます。
そして、その感情が現れたときに注意して行動すれば、自ずとその課題は改善され良い方向へ向かうでしょう。
感情による行動のマネジメントの第一歩を踏み出したといえます。
Action 03:リーダーとしてチーム力向上のための行動を決める
感情による行動のマネジメントを実感できたら、学級力向上のために、学級の中で率先する行動を決めます。
例えば、「気持ちの良い挨拶を積極的に行う」「友だち、仲間には温かく声をかける」「ほめる」といった行動を具体的に決めてもらうのです。
学級の一員としての自分の行動が友だちの感情に働きかけることを意識して行動してもらいます。
Action 04:振り返りと改善
実際に、行動を決め実践してもらうなかで生じた、自分自身の変化とグループや学級全体の状態を振り返り、検証します。
良い変化がもたらされたのであれば継続し、そうでなければ要因を分析し改善を加え行動を続けます。
教師に高いEQ(感じる力)が必要なわけ
今まで、教師のセンスや人間力という言葉で語られることが多かったのでしょうが、心の知能指数(EQ)は、学習や訓練によって高めていくことが可能だということが最近の研究結果でわかってきました。
昨今、AI(人工知能)が目覚ましい進歩を続けています。マニュアル通りに正確に教える授業などでは、人間はAIにはかなわないかもしれません。
けれども、相手の気持ちを感じ、思いやる心や臨機応変に対応できる柔軟さ(すなわち、それは心の知能指数の高さと言えます)は、人間だけがもち得るものです。
私たち教師は、日々、人間(子ども)相手に仕事をしています。
人間は、感情の生き物と言われます。子どもであればなおさら、感情の起伏が激しかったり、ほんの少しの誤解で深く傷ついたりすることもあります。
ですから、教師こそは、高いEQがなければ子どもの感情を理解し、真意を伝え諭すことはできません。
最近の若い教師は、まじめに自分の仕事に取り組み、優秀な人が多いと感じています。採用枠の少ない時代に試験を突破し、憧れの教師になったのだと思います。その身に付けた知識や技能を、子どもたちの成長のためにうまく働かせるために必要なのが、EQなのです。
自分のEQを高めていきましょう。
教師のEQの高め方
Keep in mind 01:感情的・威圧的な指導を超える
子どもたちの学校生活の大部分は、授業時間で占められています。ですから、秩序が保たれた授業を行うのは、子どもたちが安心して学校生活を送るための大きな要因です。
では、授業の秩序づくり、すなわち学習のルールを定着させるとき、どのような指導を行うべきでしょうか。
よく目にするのは、ルールを破った子を厳しく叱るやり方です。悪いことをしたら叱る。これは、当然のことです。秩序づくりには、教師の威厳も必要です。
けれども、教師が大声で怒鳴りつけてばかりいると、今度は子どもが教師に対して安心感をもてなくなります。それが、教師への不信感や反発という形で進展してしまうこともあります。
怒鳴るのは、感情的な行為であり、すぐ感情的になる人は、幼稚に見られます。
幼い子ども相手に、教師が幼稚に見られる行為を頻繁に行ってはなりません。それは、EQの低い教師の愚行です。
秩序づくりで心がけたいのは、頑張っている子を認め、ほめるという教師の姿勢です。
「子どものよさを認め、ほめる」というブレない指導を続けていくと、叱らなくても授業の秩序を築くことができます。
ピリッとした秩序が保たれ、それでいて温かさが感じられる学級をつくっている先生は、例外なく認め上手・ほめ上手です。
Keep in mind 02:否定語ではなく肯定語で指導する
叱るという行為は、子どもに否定語を浴びせかけることではありません。
肯定語で叱ることだって、十分可能なのです。
小学校の1時間の授業は45分です。授業の終盤、30分を過ぎたあたりから、姿勢が悪くなった子がいました。
「姿勢が悪い。だらしないぞ」と言うのは、否定語による叱り方です。そんな時はまず、椅子を引いて、両足をべったり床に着け、背筋をしゃんと伸ばさせます。
その後は、時々その子の様子を見ながら、声をかけたり、指名して発言させたりしていきます。そして、最後まで頑張れたことを認めてあげます。子どもを信じる気持ちをもつと、肯定的な叱り方が見えてきます。
Keep in mind 03:良心に語りかける指導とEQの高まり
子どもたちは、みんな「よい子になりたい」と思っています。「悪い子になりたい」なんて思っている子は、一人もいません。それは、誰にでも良心があるからです。
良心とは、よいことをしようとする心の働きです。
子どもの心に響く指導とは、すなわち良心に語りかける指導です。
何か悪さをした子がいたら、「何やっているんだ!」と怒鳴りつけるのではなく、「こんなことをしてどういう気持ちだった? うれしかった?」と聞いてあげてください。
子どもは、「嫌な気持ちだった。本当は、こんなことをしたくなかった」と答えるはずです。教師の言葉が子どもの心に響きます。
子どもに確かな学力を付けることは、もちろん大切です。同時に(ある意味それ以上に)大切なのは、心の育成です。
EQの高い教師は、子どもを信じ、子どもの良心に語りかける指導を行います。教師のEQは、子どもたちとの信頼関係の深まりに比例しながら高められていきます。