クラス全員が学びに参加する授業形態の一つとして、『学び合い』が注目されていますね。
しかし、「なぜ学び合いが有効なのか」・・・全ての児童が主体的に学びに向かうようになるのか・・・という疑問を感じている先生も少なくないのではないでしょうか?
そこで、上越教育大大学院学校教育研究科教授の西川純先生の「全員での課題達成を目標に!自立した学習集団をつくる!」を参考に、もう一度『学び合い』の意義や考え方を確認してみましょう!
なお、以下の記事は、Benesse教育研究開発センターの「VIEW21( 2011.Voi.3)」に掲載された西川純先生のインタビュー記事をもとに作成されています。
全員での課題達成を目標に、自立した学習集団をつくる
日々の授業でこそ人と関わる力を育む(上越教育大大学院教授 西川純先生より)
学校教育に求められるのは、社会で生きていくために必要な力の育成です。
社会ではさまざまな人が互いにかかわりながら生きているため、日常生活でも仕事でも、自分一人では解決できない問題がたくさんあります。
そうした社会で自立して生きていくためには、自分とは異なる価値観や考え方を持つ人とつながって協力的な関係を築く力、つまり他者と折り合いをつけながら課題を解決する力が欠かせません。
教育基本法が第一条で教育の目的を「人格の完成」と位置付けているのは、このことを指すと考えられます。
こうした力はこれまで、特別活動や部活動で身に付けるものと捉えられがちでした。
しかし、生徒が学校で過ごす時間の大半を占める授業の時間にこそ、他者とかかわり、知識を活用して課題を解決する活動をもっと取り入れるべきではないでしょうか。
私は、学び合いがその活動に適すると考えています。
教科学力の差にかかわらず、自ら学びに向かうようになる
学び合いは、教師が教科の内容を説明し、生徒がそれを聞く授業スタイルの対極に位置します。
教師が教え込むのではなく、教師が提示した課題に対して児童が自由にグループをつくり、互いに学び合うのです。
分からないところも、児童同士が相談して解決します。
学力下位層の児童は、必ずしも教科内容に関心がないわけではありません。
基本的な用語や言葉の意味の理解が不十分であるため、授業に参加したくても出来ないことが多いのです。
学び合いでは、友だちと話し合っていく中で、ちょっとした疑問を気兼ねなく質問できます。更に、一人の友だちの説明で分からなければ、別の友だちに尋ねるというように、何通りもの説明を聞けるのです。
説明の仕方は、児童によってさまざまですから、どの児童も、自分にとって分かりやすい説明を見付けられるでしょう。
少しでも理解できれば、これまで出来なかった児童は、学ぶ楽しさを実感します。
最初は、正解だけを教えてもらい、しかもその意味が分からず放っておいた児童が、学習意欲が高まるにつれて、「自分が分からないのはどこか」「どう分からないのか」を説明した上で解き方を尋ねるようになります。
そうした質問の数は次第に増えていき、無意識のうちに教科の本質を捉えた質問が現れることがあります。
例えば数学の正負の数で、「移項すると、なぜプラスだった数がマイナスになるのか」といった質問が出ると、上位層の生徒でも、言葉に詰まってしまいます。
移項とはどういうことかを理解していなければ、答えられないからです。
単に解き方を覚えていた生徒にとっては、全く予想しない質問でしょう。
生徒自身の知的好奇心や、質問してきた友だちへの疑問に答えたいとの思いから、既習の知識を組み合わせて真剣に考えたり、家で調べてくる生徒も出てきます。
このように理解度が異なる児童・生徒同士が交流することで、全ての児童・生徒の知的好奇心や探究心が刺激されるのです。
目標の工夫で学習意欲は更に高まる
児童・生徒が主体となり、児童・生徒同士が学習意欲を高め合う授業を行うために、教師は何をすれば良いでしょうか。
まず重要なのは、授業冒頭に示す「本時の目標」です。ポイントは次のようにまとめられます。
<西川先生が指摘する、目標設定のポイント>
● 教師だけでなく、子どもが評価できる表現になっているか(「分かる」「知る」「感じる」などの言葉は避ける)
● 具体的なゴールになっているか(三角形の合同条件を一つ見付ければ達成なのか、二つ以上見付けて達成なのか)
● インプットしたものをアウトプット(表現)させるものになっているか
● 相手(聞き手)を意識させる(言いっ放しにさせない)ようになっているか
● 削って削ってシャープになっているか
具体的に分かりやすく設定
例えば数学の授業なら、「三角形の合同条件を説明できる」とするのではなく、「合同条件をいくつ説明するのか」を示しましょう。
そうすれば、生徒はその問いで何を求められているのかを理解できます。「いくつ」が示されないと、一つ説明できれば良いと考える生徒も、三つ以上説明できなければいけないと考える生徒もいるというように、各自が達成の難易度の異なる目標に向かって取り組むことになってしまいます。これでは生徒同士の会話が噛み合いませんし、学習意欲も上がりにくいと思います。
教科によって目標を工夫
例えば理科は、「…について観察・実験の結果を使って、なぜろうそくの炎が燃え続けるのかを説明できる」と、具体的な目標を立てやすい教科です。
おのずと生徒の答えも明確になることが期待されます。
そこで、答え
だけでなく、答えを導く過程を説明できるところまでを目標にすると良いでしょう。
国語のように、文章の解釈によって複数の答えが成り立つ教科では、「…についてなぜそのように考えるようになったのか、理由とともに他の人にもよく分かるように自分の考えを説明できる」といった目標設定が有効です。
単に「自分はこう思う」と言うのではなく、他者に対して説得力のある説明が求められるわけですから、生徒はそれだけ文章を注意深く読むようになるでしょう。
全員での達成を目指す
全ての目標に「全員で課題が出来るようになること」を掲げましょう。
あえて自分一人の力だけでは達成できない目標を示すことで、生徒の交流を促すのです。
自立した学習集団を目指して目標を語り続ける
「全員での達成」を目標とすることで、教師も「児童(生徒)を一人も見捨てない」と強く意識するようになります。
その思いは、常に、児童(生徒)に伝えていただきたいと思います。
「一人でも課題が解けない児童(生徒)がいる以上、目標を達成したことにはならない」とクラス全体に語り続けるのです。
もちろん、教師の言葉で、全員が動くわけではありません。
「自分だけが解ければいい」と思っていたり、「課題なんて解けなくてもいい」と諦めたりしている児童(生徒)もいるでしょう。
しかし中には、教師の言葉に共感し、学び合いを進める児童もいます。
先生方には、一人でも多くの児童の心に訴えられるよう言葉を磨いていただきたいと思います。すぐに全員を変えようと考えがちですが、教師が特定の児童に介入してしまっては、児童の「自ら他者とかかわる力」を伸ばせません。
全ての児童(生徒)を信じて待つことが大切です。
少しずつ、目標に向かって児童(生徒)の気持ちがそろい、互いに力を合わせる集団となっていきます。
学び合いが目指すのは、教科指導を通して、自立した学習集団、いわば健全な学級をつくることなのです。
児童(生徒)が一つにまとまれば、怖いものはありません。
学力向上でも生活習慣改善でも、児童(生徒)同士が協力し、自力で実現するようになります。
児童(生徒)一人ひとりも、異なる価値観や考えを柔軟に受け入れて、自分の意見を鍛え、さまざまな人と交流する力を身に付けます。
そして、その交流を通して、互いの結び付きが強まり、集団としていかに大きな力が生まれるかを身をもって感じると思います。まさに「生きる力」の育成と言えるでしょう。